民法:契約の成立と解除について


文:山本秀樹
Est:2000.9.3.

●契約とは

 「契約」とは簡単に言うと「約束」のこと。
 不動産の購入時において、契約は非常に重要な手続きの一つです。しかし、それまでにも契約を行っていることがあるはずです。
 自動車の購入やローンの申込み、就職やアルバイトにしても、契約をして実現しているのです。もちろん、約束という意味では、友達とのお金の貸し借り、おつかいなども契約と言えます。
 このように、日常の行為においても契約は存在していて、それを守ることが基本として成り立ちます。「約束は守る」という鉄則です。
 その根拠となっているのが民法です。常識とも思えることですが、それらを民法の条文から見直して見たいと思います。

 さて、「口約束」という言葉もありますが、契約は書面がなくとも成立します。難しく言うと「口頭で意思表示をすること」で契約は成立します。
 契約時に書面を作成するのは、後のトラブルに備えて、意思表示の証拠を残すためです。
 民法では無効となる意思表示について条文が掲げられています。(93条〜96条)

第93条 【心裡留保】
 真意を隠してなした意思表示(ウソなど)
第94条 【虚偽表示】
 共謀して事実と異なる意思表示があったとすること(架空売買など)
第95条 【錯誤】
 事実と異なることに気づかずに行った意思表示
第96条 【詐欺・脅迫】
 詐欺や脅迫によってなされた意思表示は取り消すことができる
 契約の始まりがウソであった場合、契約の内容が架空のものであったりすると、その契約には問題があります。
 そこで、契約を取り消すことができたり、無効であるとしている訳ですが、これ以外の状況では契約は正しく成立するということを理解してください。
 正しく成立した契約は原則として簡単に取り消すことができないということなのです。

●契約の成立

 一方が「売りたい(買いたい)」という意思表示を行い、他方が「買います(売ります)」という意思表示が合致することで、契約が成立します。
 民法ではこれを契約の「申込み」に対して「承諾」があった時点で契約の成立としています。(521条〜528条)
第521条 【承諾期間の定めのある申込み】
 期間中は申込みを撤回できない
第522条 【承諾の延着と申込者の通知】
 申込期間中に発信されたことが分かれば契約成立
第523条 【遅延した承諾の効力】
 この承諾を新たな申込みとみなすことができる
第524条 【承諾期間の定めのない申込み】
 承諾の通知にかかる期間は申込みを撤回できない
第525条 【申込者の死亡又は能力喪失】
 原則有効である
第526条 【隔地者間の契約の成立時期、意思実現による契約の成立】
 承諾の通知を発した日に契約が成立
第527条 【申込撤回の延着と承諾者の通知】
 承諾の通知と入れ違いに申込撤回の通知が延着した場合、承諾者がその事実を通知しなければ契約は成立しない
第528条【変更を加えた承諾】
 新たな申込みがあったとみなす
 商品の予約販売のケースを使って具体的に説明しましょう。
 商品の予約申込期間が1週間あったとします。通常、その期間内に予約をすれば商品を購入することができます。(521条)
 遠隔地に住むAさんの出した申込みのハガキが、郵便の事情により期間後に到着したとします。消印によって申込期間中に発信したことが分かったため、これは予約したものとなりました。(522条)
 しかし、Bさんの出した申込みのハガキは消印が申込期間後であったため、予約はできないことになります。けれども、これをBさんからの買いたいという意思表示(新たな申込み)として受領することができるのです。(523条)

●値切りの責任

 さて、大きな買い物をするとき「値切る」という行為は多く見られるかもしれません。
 しかし、これは「申込み」と「承諾」の関係を逆転させることになります。(528条)
 「10万円」で売りますという商品について、「8万円」なら買うという場合、「10万円では買わない」という購入の拒否と「8万円」で売って欲しいという購入の申込みをしていることになるのです。
 ですから、価格を値切るということは「どうしてもそれで売って欲しい」ということであるはずで、相手に「じゃあ、8万円で売りましょう」と言われた場合、その時点で契約は成立するということになるのです。
 そのため、この後、軽々しく「やっぱり止めておくよ」なんてことは言えないのです。よくよく、買える値段を考えておく必要があるのです。

●契約の解除と手付金

 契約は簡単に取り消すことができない。と、先に書きました。しかし、それだけでは困る場合もあります。
 例えば、相手方が契約を履行しない、約束を守らない場合に解除することができるのです。(540条〜548条)
 また、契約時に手付金を支払っている場合、これを違約金として考えて同額を負担することで解除できるとしています。(557条)
 ここでは、手付金についてのみ解説します。
第557条 【手付け】
 契約時に手付けを受け取った場合、手付けの放棄または倍返しすることによって契約を解除できる
 「手付けの倍返し」というのは民法に書かれています。
 手付けとは(1)売買の成立を確約する証拠として、(2)契約を解除したいときの罰金として、(3)契約を守らなかったときの違約金として、3つの性質を持っています。
 一般に取り決めがない場合、(1)と(2)の性質を併せ持つことになります。

 売買契約において、契約時に10万円の手付金を支払ったとしましょう。
 買主は支払った10万円を放棄することで、契約を解除することができます。
 売主は預かった10万円に10万円を足した、20万円を買主に支払う(倍返し)ことで契約を解除することができるということです。
 この場合、解除の理由は問いません。ただし、(3)の違約金としてない場合は、契約解除を申し込んだ相手に対して、損害賠償を請求することができます。
 また、契約の意思表示は撤回できないことに要注意です。(540条)

 しかし、いつでも契約解除ができる訳ではありません。
 どちらか一方が契約の内容を達成するために行動を起こすと、その相手方は契約を解除することはできなくなるのです。
 不動産の売買契約ですと、買主が中間金(内金)を支払ったり、資金を調達するためにローンを組んだり、資産を売却した場合、売主が引越をしたり、買主に不動産を引き渡したりした場合などです。
 これを「履行に着手」と言い、民法では「履行に着手後は契約解除できない」としています。(542条)

第540条 【解除権の行使の方法】
 解除権ある者が一方的に意思表示をすれば解除できる
第541条 【履行遅滞による解除権】
 当事者の一方が期限までに債務を履行しない場合、期限を定めて催告し、その期限内に履行がなければ解除できる
第542条 【定期行為の解除権】
 指定の日に履行がなければ意味のない契約において、その日に履行がなければ、催告なしで解除できる
第543条 【履行不能による解除権】
 債務者の責任で債務が履行できなくなった場合、債権者は解除できる
第544条 【解除権の不可分性】
 一方の当事者が数人あるとき、解除の通知は全員で行い、全員に対して行う。解除権の取消効果が当事者の一人に生じると一方の全員に及ぶ
第545条 【解除の効果】
 解除権を使うと両者は同時に原状回復の義務を負う。第三者の利益を害すことはできない。金銭の返還時に利息を付ける必要がある。損害賠償の請求も可能。
第546条 【解除と同時履行】
 同時履行の抗弁権を認める(解除後の義務は両者同時に実行する必要があるため、一方が履行しない場合、それを理由に履行を遅らせることが許される)
第547条 【催告による解除権の消滅】
 解除権の行使に期限がない場合、解除権を使うかどうか催告し、返答がなければ解除権は消滅する
第548条 【解除権者の行為等による解除権の消滅】
 債務者が故意に目的物を破損させたり改造した場合や過失により失ったり壊れたりした場合、解除権は消滅する
 債務者とは履行の責任を負っている者のことで、売主なら商品の引き渡しの責任を、買主なら代金の支払いの責任を負う。また、その債務を受け取る他方を債権者と言う。
 このように、売買契約には両者に果たすべき責任があるのです。(双務契約)
 決して、売主だけが、買主だけが責任を負っているわけではなく、共同で1つの契約を成し遂げるために、それぞれに責任を負っているということが重要です。
 それぞれが、契約成就に最大限の努力をする。その約束をすることが契約の始まりなのです。

(注)法律には民法の他にも様々な規定があります。別法により更に規制があったり、契約時に条件を付した場合など、民法の規定と異なる状況もあります。
 民法は約束事の基本ではありますが、例外や判例によるところもあります。

【参考文献】有斐閣「六法全書」、TAC出版「宅建テキスト I 民法等」
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